COPDと喘息の似ているところ、違うところ ─ ACOという考え方もふまえて
呼吸器の病気の中でも「息苦しさ」「せき」「たん」を繰り返す代表的なものに、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と気管支喘息があります。名前は聞いたことがあっても、どのような疾患か詳しくは知らなかったり、実は気管支炎足とCOPDは似ている点が多い、という事を知らない人も、多いのではないでしょうか。実際、症状が似通っている部分は多いのは確かです。ですが、病気の背景や治療の基本方針は似ている点と、違う点があります。また、近年では両者が重なり合う「ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)」という考え方も注目されています。そこで今回のブログでは、両者の違いと共通点、さらにACOについて、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。
COPDの特徴
COPDとは、長期間にわたる喫煙や大気汚染の影響で気管支や肺が傷つき、空気の通り道が慢性的に狭くなってしまう病気です。主な原因は喫煙であり、患者さんの多くは長年タバコを吸ってきた人になります。肺の中の細かい袋(肺胞)が壊れることで酸素を取り込みにくくなり、少しの動作でも息切れがしやすくなります。また、一度壊れてしまった肺の組織は元に戻らないため、進行を食い止めるということが治療の中心になります。
喘息の特徴
一方、喘息はアレルギー体質や環境要因によって気道が過敏になり、炎症が繰り返されることで起こる病気です。特徴的なのは、発作的に「ヒューヒュー」「ゼーゼー」と呼吸が苦しくなること。気道の炎症によって一時的に気管支が狭くなりますが、適切な治療を行えば元の状態に戻るのがCOPDとの大きな違いです。また、小児期から症状がある人も多く、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などの合併もよく見られます。
COPDと喘息の共通点
両者に共通するのは「空気の通り道がせまくなり、呼吸がしづらくなる」という点です。どちらも慢性的な咳や痰、息切れを引き起こし、日常生活に支障をきたします。また、症状が季節や気候の変化で悪化したり、風邪をきっかけに重症化することもあります。そのため、初期の段階では区別が難しく、患者さん自身が「ただの風邪が長引いている」と思い込んでしまうことも少なくはありません。
違いを見極めるポイント
COPDと喘息では病気の性質が異なるため、いくつかの違いが診断の手がかりになります。COPDは中高年で喫煙歴がある人に多く、症状はゆっくりと悪化していきます。一方で喘息は若い世代から発症することも多く、発作の有無によって症状に波があるのが特徴です。また、喘息の場合、呼気NO検査というアレルギー性の気管支の炎症を調べる検査をすると、高値を示すことが多いです。また、気管支拡張薬を使うと、喘息の場合には改善することが多いですが、COPDの場合には改善しない場合が多いです。
ACO(Asthma and COPD Overlap)とは
近年注目されているのが、COPDと喘息の両方の特徴をあわせもつ「ACO(Asthma and COPD Overlap)」です。たとえば、長年喫煙をしてきた中高年の方で、子どものころからアレルギー体質があり、喘息のような発作も経験しているケースです。ACOは単純に「喘息でもありCOPDでもある」というわけではなく、両方の病態が絡み合っている状態と考えられています。治療にあたっては、喘息の基本治療である吸入ステロイド薬と、COPDで使う長時間作用型気管支拡張薬を組み合わせることが多く、どちらか一方の治療だけでは不十分な場合があります。
治療薬の選び方の違い
喘息の治療薬
喘息では「気道の炎症をしっかり抑える」ことが基本となるため、吸入ステロイド薬(ICS)が第一選択になります。炎症を鎮めることで発作を予防し、長期的に気管支を守ることができます。そのうえで、症状が残る場合には気管支拡張薬(LABAなど)を追加していきます。
COPDの治療薬
COPDでは、炎症よりも「気道の閉塞による息苦しさ」が主な問題になるため、長時間作用型の気管支拡張薬(LABAやLAMA)が中心になります。これらは気管支の筋肉をゆるめ、空気の通り道を広げることで呼吸を楽にします。吸入ステロイド薬は、感染症のリスクを高めることもあるため、COPD単独では基本的に第一選択にはなりません。
ACOの治療薬
ACOの場合は両方の特徴を考慮し、吸入ステロイド薬で炎症を抑えつつ、長時間作用型気管支拡張薬で呼吸を楽にする「併用療法」が重要になります。つまり、病気の背景によって「炎症を抑えることを優先するのか」「気道を広げることを優先するのか」が変わり、それぞれの病態に応じた薬の組み合わせが求められるんです。
治療と生活習慣の大切さ
COPDでは禁煙が最大の治療です。どんな薬を使っても喫煙を続けていては効果が得られにくいため、まずは生活習慣を見直すことが欠かせません。一方、喘息ではアレルゲンの回避や吸入ステロイド薬の継続が大切で、「症状が出ていないから薬をやめる」という判断は危険です。ACOの場合も、禁煙や生活習慣の管理はもちろん、両者の特徴を踏まえたバランスの取れた治療が求められるんです。
早めの受診が重要
息切れや長引く咳は、加齢のせいと片付けてしまいがちですが、実際にはCOPDや喘息、ACOの初期症状である可能性があります。早期に診断し治療を開始すれば、進行を防ぎ、生活の質を大きく保つことが可能です。「年齢のせい」と思わず、気になる症状があればぜひ一度元八事ファミリー内科クリニックに相談してみてください。
まとめ
COPDと喘息は似ているよう点も多いですが、原因や病気の成り立ちには大きな違いがあります。両者は共通点も多く、両方の特徴をもつACOという病態も存在します。治療薬の選択も「炎症を抑えることを優先するか」「気道を広げることを優先するか」で大きく変わり、ACOではその両方を考慮した治療が必要です。大切なのは、自分の症状がどの病気に近いのかしっかりとした診断を受け、それぞれに合った治療を受けることです。禁煙や生活習慣の改善、吸入薬の正しい使用を続けることで、長期的に安定した呼吸を保つことが可能になります。