禁煙外来は、たばこをやめたいと考えている方に対し、医学的な知識と根拠に基づいたサポートを行う専門外来です。喫煙は、肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心筋梗塞、脳卒中など、数多くの重大な疾患の原因とされており、健康への悪影響は計り知れません。加えて、周囲の人々への受動喫煙による影響も深刻です。
たばこをやめたいと思っても、ニコチン依存症という病的な状態が背景にあるため、「意思の力」だけでやめるのは簡単ではありません。禁煙外来では、医師の指導のもと、薬物療法やカウンセリングを組み合わせながら、無理なく禁煙を続けられるようサポートします。
なぜ禁煙が必要と言われているのか
~喫煙がもたらす
健康リスク~
喫煙は、呼吸器や循環器、消化器など、全身の臓器にダメージを与えることが知られています。
喫煙に関連した合併症は多岐にわたりますが、以下に代表的な疾患を載せておきます。
さらに、妊娠中の喫煙は、胎児への酸素供給を妨げ、低出生体重児や早産のリスクを高めます。また、家庭内での喫煙は、子どもやパートナーの健康にも深刻な影響を与えかねません。
タバコをやめると、
どう変わる?
禁煙で得られる
7つのメリット
禁煙は、いつ開始しても遅くはありません。タバコを卒業することで、体の中から外まで、多くの良い変化が訪れることが期待できます。そこで、禁煙によって得られる代表的な7つのメリットをご紹介させていただきます。
メリット | 補足コメント |
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1. 咳や痰が減って呼吸がラクになる | 禁煙すると、肺の機能が回復し始め、これまで悩まされていた咳や痰、息切れが徐々に回復することが期待できます。呼吸がスムーズになり、日常生活が快適に感じられるようになります。 |
2. 心臓や血管の病気のリスクを減らすことができる | タバコは動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳卒中の大きなリスクとなります。 禁煙を続けることで、心臓や脳の病気のリスクを減らすことができます。 |
3. 癌のリスクを減らすことができる | 肺がんをはじめ、喉頭がん、食道がん、胃がんなど、多くのがんは喫煙が原因とされています。タバコをやめることで、これらのリスクを減らすことができます。 |
4. 肌を若々しく保つことができる | 禁煙によって血流が改善し、肌のくすみが取れ、シワも目立ちにくくなります。 |
5. 家族や周囲の健康を守れる | 受動喫煙は、周囲の人の健康にも悪影響を与えます。 禁煙することで、大切な家族や知人、職場の同僚を病気から守ることができます。 |
6. タバコ代を節約することで経済的にもメリット | タバコをやめると、毎日の出費が減り、年間で見るとかなりの節約になります。タバコが原因の病気による医療費も抑えることが期待できます。 |
7. 味覚や嗅覚が回復し、食事がよりおいしくなる | 禁煙後は、味覚や嗅覚が鋭くなり、食事や飲み物の本来の美味しさを感じられるようになります。 |
禁煙外来での治療の流れ
当院の禁煙外来では、厚生労働省の定める基準に基づいた保険診療を行っており、以下の条件を満たす方は、健康保険で治療を受けることができます。
- 直ちに禁煙を始めたいと考えている
- ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)で5点以上
- 1日の喫煙本数 × 喫煙年数が200以上(35歳未満はこの限りではない)
- 過去1年以内に健康保険で禁煙治療を受けていない
ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)
下記設問で5点以上の方は、ニコチン依存症と診断されます。
質問項目 | はい (1点) |
いいえ (0点) |
|
問1 | 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。 | □ | □ |
問2 | 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。 | □ | □ |
問3 | 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。 | □ | □ |
問4 | 禁煙したり本数を減らしたときに、次のどれかがありましたか。 (イライラ 、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加) |
□ | □ |
問5 | 上の症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか。 | □ | □ |
問6 | 重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。 | □ | □ |
問7 | タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。 | □ | □ |
問8 | タバコのために自分に精神的問題※が起きていると分かっていても、吸うことがありましたか。 | □ | □ |
問9 | 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか。 | □ | □ |
問10 | タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。 | □ | □ |
保険診療の場合、初診から12週間にわたり、計5回の診察を受けることが基本的な流れとなります。


主な治療法
禁煙治療では、主に以下の方法が用いられます。
ニコチンパッチ(経皮吸収型) | 皮膚に貼ることで、一定量のニコチンを体内に供給し、たばこを吸わなくても禁断症状が出にくくします。 |
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チャンピックス(内服薬) | 脳内のニコチン受容体に作用し、喫煙による満足感を弱めると同時に、離脱症状を抑える効果があります。禁煙成功率が比較的高いとされています。 |
これらの薬剤を活用しつつ、喫煙欲求やストレスとの向き合い方についても、診察時にサポートを行っていきます。
禁煙を続けるための
工夫とポイント
禁煙を成功させるには、いくつかの心がけが有効です。
- 禁煙を始める「理由」を明確にする(家族のため、健康のため、節約のためなど)
- タバコを吸いたくなる「きっかけ(トリガー)」を避けるようにする(飲酒や喫煙者との接触など)
- 吸いたくなったときの代替行動を考える(深呼吸、水を飲む、軽い運動など)
- 禁煙の進捗を記録する(いつから吸っていないかを見える化)
- 成功体験を繰り返し思い出す、または家族に応援してもらう
一度失敗しても、禁煙の意思があれば何度でも挑戦する価値があります。失敗を責めるのではなく、次のチャレンジへのステップとして前向きに捉えるようにしてみてください。
まとめ
喫煙は、身体への悪影響が明らかである一方で、「やめたいけどやめられない」という悩みを抱える方が多いのも現実です。禁煙外来を受診して、医師と二人三脚で禁煙に取り組むことが、無理なく禁煙をする1番の近い道です。少しでも「やめようかな」と感じたその瞬間が、禁煙の第一歩です。ご自身の健康、そして周囲の大切な人々のためにも、ぜひ禁煙を始めてみましょう。