痰が絡む咳が続くとき
「喉に痰が絡んで咳き込む」「痰を切ろうとしてもなかなか取れない」―そんな症状が続いているとき、それは単なる風邪ではないかもしれません。痰がからむ咳は、気道に何らかの炎症や異物が存在しているサインであり、放置をし続けると、症状が悪化することもあります。
咳の種類には、大きく分けて「乾いた咳(乾性咳嗽)」と「痰が絡む咳(湿性咳嗽)」があります。今回とり上げる“痰がからむ咳(湿性咳嗽)”は、気道内で分泌物が増えている状態を意味し、その原因として、様々な病気の可能性が考えられます。
痰とは何か?
痰(たん)は、気道の粘膜から分泌される粘液に、細菌・ウイルス・ホコリ・アレルゲンなどの異物が混ざり合ったものです。痰は本来、体を守るために作られるものであり、異物を絡め取って体の外に排出する役割を果たしています。
しかし、痰の分泌量が増えたり、性状が粘っこくなったりすると、自然に喉から排出されにくくなり、咳が引き起こされます。
急性の痰を伴う咳の主な原因
急性気管支炎
最も一般的なのが、ウイルスや細菌によって気道に炎症が起きる「急性気管支炎」です。風邪の延長線上で生じることも多く、発熱や喉の痛みとともに痰の絡む咳が出ます。痰の状態は透明に近いか、白色や薄黄色のことが多いです。二次感染として細菌感染した場合には、より濃い黄色や緑色の痰が出るようになることが多いです。ウイルス性の気管支炎の場合には、多くの場合自然経過で回復しますが、症状が長引く場合には、医療機関での診察が望ましいです。
肺炎
高熱や全身のだるさ、呼吸困難感を伴いながら、黄色〜緑色の膿性痰が出ることが特徴です。高齢者では症状があまり目立たない場合もあるので注意が必要です。咳と痰が1週間以上続く場合には、医療機関を受診して詳しく検査、治療を受けることをお勧めします。
副鼻腔炎(後鼻漏)
鼻の奥に膿がたまり、それが喉に流れ落ちてくることで、痰が絡むような咳が続くことがあります。いわゆる“後鼻漏”というもので、特に朝方に咳が悪化する傾向があります。
慢性的に
痰がからむ咳が続く場合
慢性気管支炎・
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
長年の喫煙歴がある方に多く見られます。これらの病気は、進行するとともに息切れが強くなり、日常生活に支障をきたすようになりますので、早期からの治療介入が望まれます。
気管支拡張症
気道の一部が異常に拡張した状態になることを、気管支拡張症といいます。気管支が拡張してしまうと、一見空気の通りが良さそうに思いますが、実はそうではなく、そこに痰がたまりやすくなって、気道感染症を起こしやすくなります。また、拡張した気管支は脆弱であり、出血しやすいため、痰に血が混じったり(血痰)、大量の血が喀出されたり(喀血)することもあるので、注意が必要です。
心不全による肺水腫
心不全が進行すると、心臓から血液をうまく送り出せなくなり、肺に血液がうっ滞して「肺水腫(はいすいしゅ)」を引き起こすことがあります。この状態になると、肺に水分がたまり、痰が絡む咳が出てきやすくなります。特に、横になると咳や息苦しさが悪化するのが、心不全の特徴の一つです。進行すると、泡状の痰やピンク色を帯びた痰が出ることもあります。心臓に負担がかかる高血圧や心疾患のある方は特に注意が必要で、こうした症状がみられる場合は、早めに医療機関を受診することが必要となります。
痰の性状(色)から
読み取れるヒント
痰の色や質感は、原因を見極めるヒントになります。
- 無色・透明で粘っこい痰:ウイルス感染やアレルギー反応の可能性を第一に疑います。
- 黄色や緑色の痰:細菌感染を示唆(気管支炎・肺炎など)する所見の一つです。
- 血が混じる痰(ピンク色や赤みがかった痰):気道粘膜の損傷、肺がんや結核の可能性もあるので、要注意です。
- 泡のような痰(薄いピンク色の泡を含むことも):心不全による肺水腫で多く見られます。
咳と痰が続くときの
受診タイミングは?
以下のような場合には、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
- 痰の絡む咳が1週間以上続いている
- 呼吸が苦しい、ゼーゼーと音がする
- 高熱が続いている
- 痰に血が混じっている
- 過去に気管支喘息やCOPDなどの呼吸器疾患の診断がある
まとめ
痰がからむ咳は、多くの方が経験する症状でありながら、その背景にさまざまな病気が隠れている可能性があります。単なる風邪の延長とは限らず、放置すると重症化する病気が隠れていることもありますのでの、とくに、咳が長引いている、痰の色や性質が変わってきた、息苦しさを感じるなどの変化がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。