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逆流性食道炎が咳喘息に合併して存在していることが咳を長引かせることも?

喘息・長引く咳

はじめに:咳は「ひとつの原因」だけではない

「いつまでも咳が続く」「就寝前や食後に咳き込みやすい」そんなとき、咳喘息の頻度が高いのは事実です。ですが、一旦咳喘息と診断しても、必ずしも咳の原因が咳喘息「だけ」とは限らず、他の咳の要因が合併していることも多いんです。 逆流性食道炎(GERD)は長引く咳の代表的な原因のひとつですが、咳喘息(CVA)と「合併」しやすく、咳を悪化したり長引かせたりすることが少なくありません。 そこで今回は、もともと在籍していた名古屋市立大学病院での臨床研究の結果も踏まえて、咳喘息に逆流性食道炎の咳が合併しやすい、というテーマについて、深掘りしていきたいと思います。

逆流性食道炎による咳の特徴

「こんなときに咳が出やすい」チェックポイント

    • 食後や就寝前に咳が増える
    • 横になると咳が強まる(夜間の咳)
    • 会話・発声直後、うがい・飲水で咳が誘発される
    • 胸やけ、酸っぱい逆流感、喉の違和感をともなう

これらは気道の過敏性だけでは説明しきれないサインで、食道~咽喉頭の刺激や胃食道逆流に伴う神経反射が関与している可能性があります。

咳喘息と逆流性食道炎はなぜ“同時に”起こりやすい?

二つのメカニズム:直接刺激と神経反射

直接刺激説

胃酸や消化液が逆流して食道や咽喉頭を刺激し、咳反射を促す。

神経反射説

逆流の刺激が直截食道や咽喉頭を刺激しなくても、迷走神経反射を促すので、その反射として気道の敏感性を高める。

いずれの経路でも、既に咳喘息をもつ人では咳が悪化しやすく、治りにくくなることが考えられます。

臨床研究からわかったこと(Allergology International 2019)

研究デザインの概要

  • 対象:3週間以上続く咳(遷延性/慢性咳)で受診した312人(2012年4月~2018年3月)
  • 評価:逆流性食道炎の症状(FSSG)、咳に特化した生活の質の質問票(日本語版LCQ:J-LCQ)
  • 群分け:逆流性食道炎の具合に基づき「酸逆流優位」「運動異常(ディスモチリティ)優位」「症状少なめ」の3群

主要な結果

  • 逆流性食道炎が関連した咳の診断:143例。その89.8%が他疾患(多くは咳喘息)を合併
  • 逆流性食道炎が合併していると咳の持続が長く(p=0.019)、軽快まで時間がかかり(p=0.003)、咳に関連した生活の質(J-LCQ)が低い(p<0.0001)。
  •  
  • つまり、逆流性食道炎は、咳喘息など、他の咳原因を「悪化」させる共犯者となり得る、ということが書かれています。

診断の考え方:見落としを防ぐために

問診で拾いたいポイント

  • 胸やけ、逆流感、のどのつかえ感など逆流性食道炎の自覚症状
  • 食後・就寝前・臥位(横になること)で咳が悪化するか、発声・うがい・飲水で咳が誘発されるか
  • アレルギー素因、喘鳴の有無、夜間・早朝の症状

治療戦略:咳喘息と逆流性食道炎を“同時に”整える

生活習慣の最適化(まずはここから)

  •  就寝2~3時間前の飲食を控える(特に脂質の多い食材、食べすぎに注意)
  • 食後すぐ横にならない、枕・ベッド頭側をやや高く
  • カフェイン・アルコール・チョコ・柑橘・辛味・過食を控えめに
  • 適正体重の維持、腹圧を高める衣服や前屈姿勢を避ける

 

受診の目安:こんなときは相談を

  • 3週間以上、咳が続いたり、改善したり悪化したりをくり返す
  • 食後・就寝前・臥位で咳が悪化する、胸やけを伴う
  • 市販薬で改善しない、日常生活や睡眠の質が落ちている
  • 喘息の持病があり、最近コントロールが不安定

よくある質問(FAQ)

Q1. GERDの治療だけで咳は治りますか?

GERDが主因なら改善が期待できますが、咳喘息など他の要因が合併しやすいため、同時に評価・治療することが大切になってきます。

Q2. 逆流性食道炎の診断に内視鏡は必須ですか?

必須ではないと考えています。症状などから臨床診断し、その後診断的治療をすることで確定診断をつけていくことも多いです。

Q3. いつまで生活改善を続ければよいですか?

再発予防の観点から、継続することをおすすめします。

まとめ:複合原因の視点で、最短ルートの改善を

逆流性食道炎に由来する咳は、単独で起こるとは限らず、咳喘息と重なるほど長引き、咳に関しての生活の質を下げやすいことが示されています。 「風邪が治らない」だけで片づけず、GERD+咳喘息を同時に診る視点でアプローチすることが、大切になってきます。当院では、大学病院での喘息・長引く咳の専門外来での経験を生かして、長引く咳の患者に対しての治療を行っていきたいと思います。
今回は、浅野自身が大学病院時代に携わった臨床研究を紹介させていただきました。

参考文献

  1. Clinical impact of gastroesophageal reflux disease in patients with subacute/chronic cough. Allergology International. 2019 Oct;68(4):478-485. doi:10.1016/j.alit.2019.04.011